令和6年度入学式式辞
本日、健康科学部新入生 227 名及び編入生 4 名の計231名、並びに大学院健康科学研究科博士前期課程生21名、博士後期課程生 8 名、計29名の新入生を青森県立保健大学にお迎えしました。大学を代表して心より歓迎いたします。また、ご家族や関係の皆さまにも、心よりお慶びを申し上げます。
本学の基本理念には、『青森県の保健、医療及び福祉に係る諸課題の解決』、『「いのち」を育んできた創造性と四季豊かな自然に恵まれた地域特性を生かした教育』、『ヒューマンケアを実践できる人間性豊かな人材の育成』、『地域に開かれた大学として地域社会や国際社会の発展へ貢献』ということが掲げられています。
この中で、特に「ヒューマンケア」という理念に心を引かれて、本学での学びを希望した方も多いと思います。このことについて、少しお話したいと思います。「ヒューマンケア」は、社会の中で生活する多様な人々に対して、それぞれの思いを大切にし、それぞれが抱えている健康や生活面などでの困難な状況を解決するために、様々な立場や専門性をもつ人々が協働して、全人的にアプローチをしていくものです。医療機関での患者さんへのケアといった、目の前の人に対する働きかけに加え、地域で暮らす人たちへの様々な取り組みを通じて、みんなのウェルビーイング(Wellbeing)を高めていくことが、私たちの重要な役目です。
そのためには、一人一人を大切にすること、人の話を良く聞き、一方的な押しつけをしないこと、心に寄り添うとともに、客観的なデータや理論に基づき冷静に判断すること、丁寧な説明により共に意思決定をすることなどが大切です。これらは、どれも当たり前のことのように思われるかもしれませんが、意外とできていないのではないでしょうか。特に、私たちのような保健医療の専門職であったり、大きな権力をもっていたりする場合には、当たり前のことを見失っていないかなど、常に自らを律する必要があると思っています。
また本学では、「ヘルスリテラシー」という概念に焦点をあてたカリキュラムを、学部及び大学院に設けています。この概念は、専門職が、患者さんや住民の皆さんたちに、上から目線で健康に関わる知識を授けるといった古めかしい考え方ではなく、私たちがどのように患者さんや住民の方々とより良いコミュニケーションを図り、人それぞれの意思決定を支援していくかが重要です。学部生においては、「ヘルスリテラシー科目」として、多様な職種・専門性をもつ教員が担当し、4学科合同で行う、「多職種連携教育」の授業や演習も多くあります。大学院生においても、様々な職種や背景をもつ方々が同じ授業でともに学び、課題演習や研究発表などの場で活発に交流や議論を行っていきます。これらのことを通じて、皆さまはたくさんの気付きと学びを得て、地域における「真のヘルスリテラシー」の実現に貢献することができると考えています。
入学生の約半数は、青森県外から、ここ青森に来て学ぶことを選んでくれました。皆さまは、青森についてどのような印象をお持ちでしょうか? 最初に紹介した本学の理念にもあるように、「四季豊かな自然に恵まれた」とても素敵な土地で、私自身も16年前に首都圏から移り、青森の魅力にとりつかれ、これからも青森に住み続けたいと思っています。皆さまも、是非、海や山の素晴らしい自然を肌で感じ、美味しい食べ物を味わい、人と人との温かいふれあいを、エンジョイしてください。一方、青森県は平均寿命が男女ともに47都道府県で最も短いことから、自虐的に「短命県」などとも呼ばれています。このような状況に対しては、先ほど述べたような、より良いコミュニケーションのもとで培われる、「真のヘルスリテラシー」が重要と考え、本学の教員、大学院生や修了生などが協力して、研究プロジェクトなどを進めています。大学院に昨年度開設した「公衆衛生学修士コース」では、「青森県の健康を丸ごと探求し、世界に還元する人材を育成する」というキャッチフレーズをつくりました。皆さまも、青森の素晴らしさと健康に関わる課題の両面を、肌で感じ、様々な学習や分析を通して、解決に向けての方策を追求していただければと思っています。そして、青森、日本、世界の人々のウェルビーイングのために貢献できるよう、学部の4年間や、大学院で大いに学び、研究するとともに、より良いコミュニケーションを通じて他者や地域への理解と共感を深めていってください。
さらに、世界に目を向けると、他者に対する排除的な考えが、国家間の摩擦や紛争をさらに悪化させ、多くの人々の基本的人権をも脅かしています。また、地球環境への負荷の増大による気候変動は、私たちの生活を直接脅かす事態を招いています。昨今は、「地球の健康」“Planetary Health”という概念も広がり、私たちの健康やウェルビーイングを考える上で、より幅広い視野を持つことが求められています。そして、広い心をもち、多様性への理解と、それらを包み込む“インクルーシブ”な姿勢をもつことの重要性が増しており、本学でもしっかりと推進して行きたいと考えています。
青森県立高等看護学院を母体として、本学が設立されてから25年となりました。大学設立の目的と理念を改めて振り返り、皆さまがこのキャンパスで「のびのび」、そして「しっかり」と、大学生活を有意義なものとできるよう、教職員一同、精一杯サポートして参ります。わくわく、ドキドキ、共に学んでいきましょう。
本日は、ご入学、誠におめでとうございます。
令和6年4月5日
青森県立保健大学学長 吉池信男